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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1957号 判決

理由

一  事実関係

1  被控訴人が原判決別紙第二目録記載の建物を所有し、その敷地である同第一目録記載の土地を占有していることは当事者間に争いがない。

2  右土地の所有権の変動および登記について

右土地が昭和三三年三月二二日当時(第一順位根抵当権設定時)国(大蔵省)の所有であつたことは当事者間に争いがない。

《証拠》によると、成井武雄は、昭和三三年八月二九日国(大蔵省)との間で右土地を代金分割弁済の約定の売買契約を締結し、代金完済後の昭和三六年一月二六日付をもつて昭和三三年八月二九日売払を原因とする所有権移転登記を受けたことが認められ、代金完済までその所有権を売主(国)に留保する旨の定めがあつた旨の控訴人の主張は、これを認めるに足る証拠はないので、成井は右売買契約の日にその所有権を取得したものというべきである。

昭和三六年一月二六日成井から高木郷太郎に右土地の所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがない。

前記《証拠》によると、遠藤迪夫は昭和四〇年七月六日成井・高木との三者の契約に基づいて右土地の所有権を取得し、同月一五日高木から遠藤への所有権移転登記がなされたこと、遠藤は昭和四一年六月頃譲渡担保の目的で被控訴人に所有権を移転し、同月二二日付をもつて所有権移転登記を経由したことが認められ、右移転登記を虚偽仮装のものとする控訴人の主張はこれを認めるに足る証拠がない。

3  右建物の所有および抵当権設定ならびにその登記について

昭和三三年三月二二日当時(第一順位根抵当権設定時)成井が右建物を所有していたことは当事者間に争いがなく、その後後記競落に至るまでに成井が右所有権を失つた旨の主張立証はない。そして、その間登記簿上成井が右建物の所有者であることは、《証拠》により明らかである。

成井が右建物につき昭和三三年三月二二日被控訴人主張の第一順位の根抵当権を設定し、その主張のとおり登記がなされたことは当事者間に争いがなく、前記《証拠》によると、同年一一月一八日三笠無線電機合資会社のため第二順位の根抵当権が設定されたことが認められ同月二一日その旨登記がなされたことおよび昭和四〇年一二月一〇日右建物に対する第一順位の根抵当権が実行され、被控訴人がこれを競落したとの被控訴人主張事実は控訴人が明らかにこれを争わないのでこれを自白したものとみなす。そして、前掲《証拠》によると、右第二順位の根抵当権は右競落により消滅したことが認められる。

二  以上の事実に基づいて、右建物を競落した被控訴人がその敷地である右土地につき法定地上権を有するか否かを判断する。

1  昭和三三月一一月一八日右建物に第二順位の根抵当権が設定された時点には、右建物とその存する土地がいずれも成井の所有に属していたのであるから、右抵当権については、民法三八八条の要件を充たすものである。もとより、その後抵当権実行までに土地の所有者が変更し、土地と建物が別個の人に属することになつていても、右抵当権設定当時想定される潜在的利用関係の現実化である法定地上権の成立になんら影響はない(大審院大正一二年一二月一四日判決民集二巻六七六頁)。

右建物に対する他の抵当権者の申立による抵当権の実行の場合でも、当時前記要件をみたす抵当権が存する限り、建物競落人は法定地上権を取得するものと解せられる(大審院昭和一四年七月二六日判決民集一八巻七七二頁)。けだし、建物に対し抵当権が併存する場合、そのいずれの抵当権者の申立であるかを問わず、競落によりすべての抵当権は消滅する。そこで、この場合、抵当権の一つがその要件をみたす場合建物競落人は法定地上権を取得すると解するのを相当とする。かように解しても、他の抵当権者の利益となるし、一面、抵当権の存する建物とその敷地たる土地につき、建物所有者が土地を取得し、あるいは、土地所有者が建物を取得することにより同一人の所有に属するに至つた後、さらに建物に抵当権が設定された場合における右取得ないしは後の抵当権設定時のその合理的意思に反せず、したがつて、土地所有者に不測の結果をもたらすことはないということができる。

2  次に、登記関係についていえば、控訴人は建物に対する抵当権設定当時その敷地である土地が登記簿上右抵当権設定者の所有名義になつていないときは法定地上権は成立しないと主張するけれども、法定地上権の成立について、建物抵当権設定時においては、その負担を受けるべき土地所有者の所有権取得登記はその所有者にとつて狭義の対抗要件の問題でなく、その後土地につき正当な利害関係を有するに至つた者に対し公示の配慮を全く欠くわけにはゆかないとの要請があるに過ぎないと解せられる。つまり、その後の土地所有権取得者において、取得当時、法定地上権が成立する可能性のあることを登記簿上予め知ることができれば足りるというべきである。

本件において、建物については第二順位抵当権設定(昭和三三年一一月一八日)より前から成井の所有として登記されているけれども、土地につき右設定当時成井に対する所有権移転登記がなされていない。しかし、昭和三六年一月二六日には右抵当権設定時以前の昭和三三年八月二九日売払を原因とする所有権移転登記がなされているのであつて、その後の時点で右土地につき所有権取得の登記を得た高木、遠藤、控訴人のいずれもその各登記当時、前記第二順位の抵当権につき民法三八八条の要件をみたし法定地上権の負担を受ける場合のあることを登記簿上から知り得るのであるから、成井の右登記未経由の点をもつて右抵当権に基づく法定地上権の成立を妨げ、あるいは、これを控訴人に対し主張し得ないものと解すべき理由はなく、控訴人の右主張は採用しない。

3  以上のとおりであるから、右建物の競落人たる被控訴人はその敷地である右土地につき法定地上権を取得したものということができる。

三  よつて、右土地の所有権に基づいて右建物の収去および右土地の明渡を求める控訴人の請求は失当として棄却

(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 田坂友男 高山晨)

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